幹細胞とは?

山中先生のiPS細胞の発見以来、「幹細胞」という言葉をよく聞くようになりました。

ちなみにiPS細胞も幹細胞の一種で”induced Pluripotent Stem Cells”を略してiPS細胞と呼んでいます。

すべて日本語で表記すると「誘導多能性幹細胞」となります。

しかし、iPS細胞はまだクリアしないといけない問題が多くあり、一般的に医療に使われるようになるのはもう少し先になりそうです。

一方、既に再生医療の分野で行われているのが、体性幹細胞を用いた治療です。

幹細胞の特徴と種類

メディアではiPS細胞は「万能細胞」などと呼ばれますが、万能細胞という呼び方は俗称です。

なぜなら、iPS細胞は万能細胞ではないからです。

幹細胞の種類

幹細胞とは生物学的には「自己複製能と多分化能の両方を有する細胞」のことです。

具体的には

  1. 受精卵
  2. iPS細胞
  3. ES細胞
  4. 体性幹細胞(組織幹細胞)

などが幹細胞にあたります。

受精卵

ヒトはたった1つの受精卵から生まれます。

受精卵はヒトの体を構成するすべての体細胞に分化することができる細胞で全能性幹細胞と呼ばれます。

ES細胞

”Enbryonic Stem Cells”を略してES細胞と呼ばれています。

日本語だと「胚性幹細胞」になります。

ES細胞は受精卵をあれこれ操作して作成する細胞で多能性幹細胞と呼ばれます。

複数の細胞に分化できる細胞なので多能性幹細胞ではありますが、胎盤にだけは分化できないので全能ではありません。

ES細胞は「人1人になるはずだったものを潰すことになるので、治療目的に用いるのは止めましょうという」ことになっています。

現在は主に研究用に作成されています。

iPS細胞

冒頭で説明した通り、”induced Pluripotent Stem Cells”を略してiPS細胞と呼んでいます。

日本語では「誘導多能性幹細胞」となります。

ES細胞と同じで複数の細胞に分化することはできますが、胎盤にだけはなれないので、全能性ではなく多能性幹細胞です。

iPS細胞の発見で山中先生がノーベル賞を受賞された事は皆さんご存知でしょう。

体細胞に操作を加えることで、細胞を受精卵の近くまで巻き戻すことができるという画期的な発見でした。

こちらは治療目的で世界中の医学研究者が研究しています。

ES細胞と違い倫理的な問題がないだけでなく、患者自身の細胞から作ることができるので、拒絶反応の心配がありません。

しかし、まだiPS細胞を用いた再生医療は研究途上であり、複雑な組織の形成が困難だったり、がん化しやすいなどの問題があります。

本格的に治療で使われるようになるのはもう少し先になるでしょう。

体性幹細胞(組織幹細胞)

一方、既に行われている再生医療が僕が受けた幹細胞治療です。

これは体性幹細胞を使う治療で、身体麻痺やアトピー、創傷治癒などに効果があります。

いわゆる幹細胞治療では体性幹細胞を取り出して、培養して増やしてから体に戻す治療です。

幹細胞番長

ちなみに多くの人が耳にしたことがあるであろう骨髄移植も幹細胞治療(幹細胞移植)の一種です。

体性幹細胞とは、人体を構成するすべての細胞には分化できないものの、特定の組織を構成する細胞に分化できる幹細胞です。

例えば、皮膚は常にターンオーバーで表面の細胞は入れ替わっています。

生きてれば垢が出ますが、垢の正体は死んだ表皮細胞です。

死んだ分の表皮細胞が新しく生まれないと、皮膚はなくなってしまいます。

そうならないよう新しい表皮細胞を供給しているのが、体性幹細胞である表皮幹細胞です。

体性幹細胞は不等分裂という特殊な分裂の仕方で、自己複製と体細胞(この場合、表皮細胞)の供給を行います。

体性幹細胞が常に表皮細胞を供給しているから垢が剥がれ落ちても皮膚がなくならないわけです。

幹細胞番長

この死んだ表皮細胞が剥がれ落ちて、新しい表皮細胞に入れ替わるサイクルをターンオーバーと言います。

幹細胞の特徴

通常、一度幹細胞から分化して特定の体細胞になった細胞は

  1. 分裂しても同じ体細胞にしかなれない
  2. 一定回数以上分裂するとそれ以上分裂できない(ヘイフリック限界)

などの制限があります。

しかし、幹細胞はこれらの縛りがなく

  1. 他の細胞にもなれる
  2. 分裂回数に制限がない

という特徴があります。

他にも「酸化ストレス耐性が高い」とか、「DNA修復能が高い」とか、他にも色々特徴があるんですがその辺はとりあえず置いておきましょう。

体性幹細胞はiPS細胞やES細胞と同じように多分化能はありますが、これらの細胞ほど多種類の細胞にはなれません。

例えば、iPS細胞であれば表皮細胞にも神経細胞にもなれますが、表皮幹細胞であれば表皮組織を構成する細胞にしかなれません。

幹細胞番長

体性幹細胞はある程度、分化の方向性が決まっている幹細胞と言えます。

幹細胞は不等分裂で幹細胞とTA細胞に分裂する

何やら小難しい単語が並んでいますが、幹細胞の性質を理解する上で重要なことなので、解説していきます。

実は体性幹細胞自身はほとんど分裂しません

忘れられた頃にポロッと分裂する程度です。

その代わり、体性幹細胞は分裂の際

体性幹細胞→体性幹細胞+TA細胞

という不等分裂で自己複製を行うと同時にTA細胞(前駆細胞)という別の細胞を生み出します。

上で解説したように普通の体細胞は分裂しても同じ細胞にしかなりませんが、ここが幹細胞の違うところです。

表皮幹細胞であれば、表皮を構成するすべての細胞を生み出さないといけないのにたまにしか分裂しないんじゃ、細胞が足りなくなるんじゃないかという心配がありますが、それはTA細胞が解決してくれます。

幹細胞はほとんど分裂しない代わりに娘細胞にあたるTA細胞がめちゃくちゃ頑張って分裂して構成細胞(体細胞)を生み出しているからです。

幹細胞は成長因子などのシグナル分子を分泌することで、TA細胞やその娘細胞の分裂を助けています。

この時、分泌される生体シグナルと同じものが美容成分であるヒト幹細胞培養上清液です。

体性幹細胞は生涯に渡って減ることはない?

しかも、この不等分裂では組織を構成細胞を生み出すと同時に自分と同じ体性幹細胞も生み出しているので、幹細胞の数は変わりません。

この理屈でいくとTA細胞が1つ生まれる度に体性幹細胞自身も再生産されるので、一生涯に渡って体性幹細胞は数を減らさないことになります。

しかし残念ながら、現実には加齢とともに少なくとも表皮幹細胞は減っていくことが分かっています。

詳細を知りたい方はこちらを参照してください。

Age-related decrease in CD271(+) cells in human skin

理論上は減るはずがないのに、現実には減っている。

これがなぜなのかは、まだ良くわかっていない生物学の謎です。

上の論文では「表皮幹細胞は紫外線によってダメージを受けて死ぬから、数が減る」のではないかと仮説を立てていました。

なぜヒトは老化するのか?

以下は僕の勝手な仮説です。

幹細胞は酸化ストレス耐性が高い上にほとんど分裂しないので、細胞がダメージを受ける可能性は低いですが、いくら可能性が低くてもリスクはゼロにはなりません。

幹細胞は一生涯に渡って活動を続けなければならないので、それだけダメージを受ける機会が多くなります。

「幹細胞はダメージを受ける可能性は低くても、機会が多いので、ダメージを受けてしまい死ぬ」

のではないかと。

体性幹細胞の減少⇒体細胞の減少⇒組織の再生が追いつかなくなる⇒老化

体性幹細胞の数が減ることで、組織の再生が追いつかなくなって体が老化するのではないかと思っています。

余談 幹細胞の名前の由来

幹細胞はなぜ、”幹”という名前がついているのかご存知でしょうか?

実は僕はアルベイズを始めた当初知りませんでした。

受精卵(幹細胞)が木の幹だとするとそこから様々な体細胞が生まれる(分化する)から全ての細胞の元になるから”幹”細胞というのだと思っていました。

しかし、実際は「植物の茎(Stem、幹)から最初に発見された細胞だから」ということだそうです。

ちなみに植物はすべての細胞が全能性を持っていて、分化した細胞からどの組織の細胞にでも変化する事ができます。

例えば、茎の細胞でも、根の細胞になることができます。

だからネギの茎を水に浸けておくと根が生えてくるわけです。

我が家ではよく買ってきた小ねぎの根っこ付近の茎を残しておいて、根を出させてから土に植えて再生産しています(笑)